width=

いぶりがっこ

 width=

秋田県横手市が本場の伝統的な郷土料理(漬物)

今回は、秋田県に古来より伝承される独自製法で作られた囲炉裏干しの大根漬け(いぶり漬け)、「いぶりがっこ」を紹介します。

いぶりがっこの歴史

四方を山々に囲まれた地域では、日照時間が少なく、降雪の時期が早いため、漬け物造りのための秋大根を天日で十分に干すことができません。屋内の梁(はり)につり下げ、囲炉裏火の熱と煙を利用して干し上げて漬け込む”燻り(いぶり)漬け”が造り継がれてきました。囲炉裏火で燻煙乾燥することで風味と保存性が高まり、さらに初冬の低温下で漬け込むことにより、この地方の雪深く長い冬を越してまでも食べることができました。漬け方は様々で、家々の味があり代々造り継がれてきました。その起源は古く室町時代からとも伝えられています。

このいぶり漬けは、幾多の時代を経て昭和30年代に薪ストーブが普及するまでほとんどの家庭で造られていました。冬場のなくてはならない常備食として人々の健康を支え、酒の肴やお茶うけとして人々の語らいの場に欠かせないものでした。この地方で大根漬け(でごづげ)といえば、このいぶり漬けのことをいい、冬から春にかけてごく日常の食べ物でした。

昭和30年代、薪ストーブが普及し、家屋から囲炉裏が消えていくと同時にいぶり漬けも造られなくなっていきました。薪ストーブで乾燥すると大根に『す』が入り、囲炉裏火のように干し上げることができなかったのです。食べ物が美味しく豊かになっていく時代の流れは、都会から遠くはなれた山里であっても同じでした。素朴な味わいのいぶり漬けは、その役割を終えたかのように、次第に造られなくなっていきました。 昭和40年代に入るといぶり漬けの味を懐かしむ声が聞こえてきました。秋田県内で戦前から自家消費用として広く造られていた囲炉裏干しの「燻り大根漬け」を、昭和42年には秋田県内の漬け物業者が初めて「いぶりがっこ」の商品名を付けて一般向けに販売しました。漬け物業者は販売にあたり、家伝のいぶり漬けの商品化を試みます。囲炉裏火の熱と煙で干し上げた大根に『す』入りが起きないことに着目し、厳選した薪を燃した”焚き木干し”による大根の燻煙乾燥を独自の燻製小屋を造り追求しました。また、古来伝承の米ぬかと塩を主体にしたシンプルな漬け込みにこだわることで、いぶり漬け本来の素朴で味わい深い風味を目指しました。以来、秋田の伝統食として現在に至るまでおよそ50年間造り継がれています。

いぶりがっこの特徴

今のように冷蔵庫が一般家庭に普及する前、雪国秋田では、食料が不足する厳冬期を乗り切るため、塩や味噌、醤油などで食料を漬ける保存食文化が発達しました。一般的に、だいこんを天日干しにして、漬物にしたものが「たくあん」です。しかし、秋田は冬は日照時間が少なく、気温も氷点下となる雪深い環境では、だいこんを干すことができませんでした。そこで家の中の囲炉裏の上でだいこんを吊るし、燻すことで乾燥させて漬物をつくりました。それが、「いぶりがっこ」の始まりです。冬の寒さ、雪にも負けずに家族に美味しいものを食べさせたい、というまさに雪国の知恵の結晶です。〈いぶり〉とはもちろん〈燻した〉という意味。〈がっこ〉とは秋田で〈漬物〉を意味する方言です。楢や桜の木で燻すことで、独特の香ばしい燻製の香りを纏い、米ぬかを用いて漬けこみます。かつては秋田県内の家庭で作られていたという郷土料理です。現在ではさまざまな生産者が、先人たちの伝統の味と製法を守りながら、それぞれの味を今に伝えています。 「いぶりがっこ」は、大根の乾燥工程を燻製で行うという秋田県独自の製法で造られたたくあん漬けです。大根を、低温でゆるやかに燻した後に漬け込むことで、独特の香ばしい燻しの香りとパリパリとした食感が楽しめます。低温で燻した大根は、大根の中まで適度に煙が行き渡るとともに全体がムラなく乾燥します。この大根を40日以上ぬか床へ漬け込み、真冬の冷気の中でゆっくり乳酸醗酵させることで、大根の内部までぬか床の旨みが十分に浸透し、大根本来の甘味を引き立てています。香ばしい燻しの香りと大根の甘味が一体となった独特の風味を有する「いぶりがっこ」は、秋田県内では常備食とされているが、野菜を燻して漬け物にする食品は、日本のみならず、世界でも稀少な燻製製品です。秋田県の特産食材として県外での人気が高まり、全国的に野菜漬物の生産が減少する中、年々生産量が増加しています。

いぶりがっこの製法について

毎年11月初旬から12月にかけて大根を収穫します。収穫した大根をよく洗って乾かします。そして、新鮮なうちに8〜10本程度に分けて縄で束にします。燻し小屋に束にした大根を吊るし、約4日間燻します。約60日間漬け込み熟成させる原材料は国内産の大根を用います。このように多くの手間をかけた過程を経て生産されています。 原料である大根を、香りや色づきが良い「ナラ」や「サクラ」等の広葉樹を用いて昼夜2日以上燻す。燻し終えた大根は、ぬか床に40日以上漬け込み、低温で長時間、発酵・熟成させます。仕込みにあたって使用する食品添加物は自然由来のものを基本とし、以下の食品添加物(甘味料としてサッカリンおよびその塩類、着色料として食用黄色4号および食用黄色4号アルミニウムレーキ、保存料としてソルビン酸およびその塩類)は用いないものとしています。

いぶりがっこの普及について

最近では、その独特の香りや食感が、洋風化した現在の食生活にも合うことから、ホテルやレストランでも秋田の特産食材として活用され、以前から食されている地域の伝統的食品でありながら、近年とみに話題になっています。最近のいぶりがっこファンの中心は口が肥えたおしゃれな若い世代です。秋田県外での人気が高まるとともに生産量は年々増加し製造業者の数も増えています。「いぶりがっこ」の製造は手作業が多く大量生産は難しいですが、秋田県の調査によると、平成26年度に主要な14業者でおよそ250万本を製造していたものが、平成29年度には17業者で278万本となっており、全国的に野菜漬け物全般の生産量が減少する中、安定して生産量を伸ばしています。


関連記事