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すんき

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長野県木曽郡で300年以上前から作られている伝統食

今回は、長野県木曽郡に古くから伝わる無塩の乳酸発酵による漬物「すんき」をご紹介します。

すんきの歴史

元禄元年(1688年頃)俳人松尾芭蕉門下の句会において、芭蕉と弟子の凡兆が詠んだ連句の中に「木曽の酢茎(すぐき)に春も暮れつつ」という一句がみられ、「酢茎は山家の食べものとしてのあしらい(もてなし)に供せられている」と記録されています。この「酢茎」が訛って「すんき」となったと考えられており、木曽郡において300年以上前から作られています。「すんき」は、木曽郡の人々の料理に欠かせない食材として利用されていました。木曽郡王滝村の庄屋である松原家の嘉永3年の古文書には、この年の2月に行われた御嶽山の開山の祖である普寛行者五十年忌の念仏供養の際の献立表に「すんき」が記載されており、鉢物や和物に酸味と旨味を与える食材として利用されていたことがわかります。

また、木曽郡木曽町開田高原の山下家(長野県宝)に残る、明治27年(1894年)3月の葬儀における配役記録の料理の欄に、「すんき」と記されており、葬式等の際の料理の一品であったことがわかります。「すんき」は長い間木曽郡の家庭の味として伝承されていましたが、産地の一つである木曽郡王滝村では、昭和47年(1972年)に地元の農業協同組合による漬物加工場が建設されたことから増産体制をとるようになり「すんき」の販売を行っています。

また、地域資源として広く見直されるようになった昭和60年ころから、木曽郡内の農産加工組織等によって「すんき」が商品化されるようになり、現在に至っています。

すんきの特徴

「すんき」は、長野県木曽郡に古くから伝わる伝統食で、この地域の伝統野菜である赤蕪の茎葉若しくは茎葉と葉の付け根部分にあたる胚軸の一部を原料として、複数の植物性乳酸菌によって発酵させる、国内外でも極めて珍しい無塩の乳酸発酵による漬物です。 「すんき」の外観は、長野県で良く漬けられる野沢菜漬けに似た、べっこう色をしています。赤みを帯びた胚軸の一部を刻んで入れるため、その赤みによって漬け汁が薄いピンク色を呈している場合もあります。乳酸菌発酵による独特の酸味があり、そのまま食することもありますが、木曽郡では古くから、味噌汁に具としてすんきを入れた「すんき汁」や、温かいそばの上にすんきをのせた「すんきそば」が食べられています。

また「すんき」は、木曽郡では古くから健康維持に効果があると言われており、最近では、整腸作用や抗アレルギー作用などの機能性が注目され、研究が重ねられています。1950年に世界初となる「すんき」の乳酸菌についての論文が発表されて以来、栄養成分や機能性等についての研究が行われ、その乳酸菌の免疫調整機能や疾病予防作用が報告されています。

発祥の地である木曽郡木曽町開田高原及び木曽郡王滝村は標高が1000m~1300mと高く、年平均気温がそれぞれ7.4℃、10.5℃と寒さの厳しい地域であり、原料となる赤蕪の品質にも影響を与えていると考えられます。特に、収穫期を迎える直前の10月終わりから11月頃に、赤蕪畑に2、3回、霜が降り霜に当った赤蕪が、美味しいすんき作りには重要であると経験的に知られています。

「すんき」は江戸時代から今日に至るまで日常的に食されてきた伝統食ですが、かつて塩が貴重な時代に、山深い信州木曽の地で冬に不足しがちな野菜を保存するために、塩を一切使わず、乳酸によって保存性を高める食品として発達したと考えられています。元々家庭の味として伝承されてきた「すんき」ですが、1972年には地元の農業協同組合が販売を開始し、地域資源として広く見直されるようになった1985年ころから、木曽郡内の農産加工組織等によって「すんき」が広く商品化されるようになりました。

すんきの生産について

原料は「信州の伝統野菜」に選定されている蕪のうち、木曽郡の伝統野菜である赤蕪を用います。(「信州の伝統野菜認定制度」は、平成19年に長野県が創設したもので、長野県内で栽培されている野菜のうち、「来歴:地域の風土に育まれ、昭和30年代以前から栽培されている品種であること」「食文化:当該品種に関した信州の食文化を伝える行事食・郷土食が伝承されていること」「品種特性:当該野菜固有の品種特性が明確になっていること」の3項目について一定の基準を満たしたものを選定しています。)

赤蕪の茎葉若しくは茎葉と葉の付け根部分にあたる胚軸の一部を利用し、調整、洗浄後に湯通しを行います。湯通しした赤蕪の茎葉若しくは茎葉と葉の付け根部分にあたる胚軸の一部にすんき種を加えて漬け込みます。すんき種は乳酸発酵のスターターであり、前年に製造したすんきを冷蔵、冷凍、又は乾燥したもの、前年に製造したすんきの漬け汁を冷蔵したもの、すんきから分離培養された4種類の乳酸菌が使用されます。漬け込み後は嫌気性を保ちながら発酵を進めます。漬け込み後概ね1日後までは保温した状態を保ち、良好な発酵が確認されたら冷涼な場所に置いて、じっくり発酵させます。最初の漬け込みにはすんき種を利用し、出来上がった「すんき」を種としてさらに漬け込みを行う作業を数回繰り返して、漬け込み量を確保します。「すんき」の出来上がりのpHは概ね3.7~4.3の範囲とします。

すんきの普及について

「すんき」は「全国に唯一と考えられる乳酸菌の漬物、スンキ漬けは生活民族資料としてきわめて貴重」という理由により、昭和58年(1983年)7月「長野県選択無形民俗文化財」に「スンキ漬け」として指定されました。

また、平成19年(2007年)3月に、「スローフードインターナショナル」が、世界各地で伝統的に栽培され食されてきた固有の在来品種や加工食品を選定する「味の箱舟」に、「木曽の赤蕪」が認定されており、その中で赤蕪の加工品として「国内でも独特の製法手順をとり、郷土食文化を代表するすんき」と紹介されています。

近年の発酵食品ブームの中で、希少な無塩発酵食品として注目が集まり、テレビ、新聞等のメディアに取り上げられ、木曽郡の伝統的な食品として紹介されています。(平成23年1月13日NHK「あさイチ」、平成27年12月5日TBS系「サタデープラス」等)


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