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ダイナミックマップ基盤株式会社<GNT100(グローバルニッチトップ100)インタビュー>

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インタビュー:東京大学広告研究会
記事作成:東京大学広告研究会

人が読む地図からクルマが読む地図へ

ダイナミックマップ基盤株式会社は、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)において自動運転・自動走行向けの地図を「競争領域」ではなく「協調領域」とする方針のもと、2016 年に設立された会社です。
また、2019年には、米国General Motorsへ納入実績を有するUshr社を買収することで、日本国内だけでなく米国にも市場を広げて事業を展開しています。
2020年には、経済産業省が認定するグローバルニッチトップ企業100選に選出されました。

先日、世界初の「自動運転レベル3」と言われるホンダレジェンドが発売され話題を呼びましたが、実はその車にもダイナミックマップ基盤株式会社のデータが採用されているのです。自動運転への関心がますます高まる中で、その先進的な技術を裏から支えているリーディングカンパニーであるダイナミックマップ基盤株式会社 取締役副社長 吉村 修一 様に取材させていただきました。

HDマップとは

高精度3次元地図データ- HD(High Definition)マップ

HDマップとは、高度な計測技術を用いて生成されたセンチメートル級の高精度を誇る3次元の地図データです。自動走行や先進運転支援システムに必要な区画線、路肩縁、進行方向、そして車線の中央を走るための車線リンクを収録しています。次世代のHDマップ(2023年度導入予定の一般道データ)には、安全に停止するために必要な停止線、信号機の情報等も収録しており、信号に関して言えば高さ情報まで正確に収録する予定です。
一般的に知られているカーナビゲーション用の地図は、目的地までの経路を知るために「ドライバーが読む」ことを主たる目的とした地図のため、基本的には道路に関する2次元情報が主となっています。
一方、HDマップは自動車の制御データとして用いられることが目的のため3次元の情報が必要となっております。地球上を3次元で高精度に表現されたHDマップを車に搭載することによって、そのデータに基づいて車が走行できる仕組みになっています。極端な話、HDマップはドライバーの目に触れる必要はなく、いわば「機械である自動車が読むためのデータ」なのです。

HDマップの生成過程

HDマップは大きく分けて以下の4つの工程で生成されます。
⑴  衛星測位
計測する際に衛星も用いて自車位置を特定するところから始めます。
⑵  計測
「モービルマッピングシステム」という様々なセンサーの集合体を車の上にのせて、点群データを生成します。一つ一つの点が細 かく水平位置と高さのデータを持っているだけでなく、いつ撮ったのかなどの情報も持っており、走行しながら瞬間的に4次元情報(縦横高さの位置情報と時間)を取得する仕組みとなっています。実際の計測では、車内オペレータが常に衛星状況をモニタリングし、計測時の精度劣化を可能な限り回避するよう努めています。
⑶   図化
計測で得られた点群を出典として、地図データを作成します。点群データから自動運転に必要とされる最小限の地物を抽出してベクトル化することで高精度のデータを軽く扱いやすく生成できます。
⑷  統合
図化の工程で生成された各地物データを必要に応じ関連付けし、属性情報を付加することで「高精度3次元地図データ(HDマップ)」が完成します。

HDマップの役割

車を運転する際には、自社の周辺状況を「認知」してそれに応じて「判断」し「操作」するというプロセスを無限に繰り返しています。このプロセスを段階的に、最終的には全て機械に任せることで運転の自動化というものが実現します。
その際、当社のHDマップデータは「認知」の部分に非常に有効です。
具体的に、認知をする上でどういったように活用されるのかについてご紹介します。


⑴  自己位置推定
車両がどのレーンを走行しているのかの確認はもちろん、センサーが検知した道路標識などの地物をHDマップと照合することで、より正確な自己位置を推定することができます。また、センサーの累積誤差を修正することによって、正確性を担保することができます。
⑵   先読み情報
近年、車に搭載されているセンサーの性能がますます上がっているものの、検出距離という「性能限界」がどうしても存在します。
例えば急カーブでは、この先がどの様に曲がっているのかという情報をセンサーで取得することは物理的に困難です。
こうした時、人間であれば、ゆっくりかつ滑らかにコーナリングするために少しずつブレーキを踏み、ハンドルを切るという無数の判断と操作をしながら運転しています。
しかしながら、これを機械にやらせようとすると、常にカメラで白線などの対象物を認識し、演算処理しながら走っていくことになります。すると、すごく急カーブの場合には処理が追い付かず、速いスピードのままカーブに進入し曲がり切ることができずに危険になる場合や快適さが損なわれる場合があります。
そこにHDマップがあることで、カーブがどのように曲がっているのかがあらかじめ分かり、適正な進入速度でカーブに入ることができ、その後、適切な速度とハンドル操作でスムーズにコーナリングをすることが可能となるのです。
⑶  センサーの補完
時間とともに白線がかすれるなど、道路が経年劣化するとセンサーが読み取りにくくなるケースが多々存在します。
そこで、あらかじめ道路はどうなっているのかなどといった3次元のHDマップデータがあると、こういった状況でもセンサーの限界を補い、より安全性・安定性を高めることができるのです。

ダイナミックマップ基盤のこれまでとこれから

HDマップに着目した経緯

当社がHDマップに着目したというよりかは、国家プロジェクト的に立ち上がったという方が正しいかもしれません。2013年頃から我が国においても自動車会社様を中心に自動運転・自動走行を発展させていこうという声が多く上がりました。そして実際に内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)における自動運転・自動走行領域の検討をベースとして当社が発足されました。

オールジャパン体制の強み

当社は、電機メーカー・地図会社3社・測量会社2社・国内自動車会社10社・官民ファンドらが株主になって頂いている、いわゆるオールジャパンの体制となっています。当時、「自動運転に利用できる地図」という市場はまだ確立されていませんでした。自動運転・先進運転支援システムの市場を立ち上げるために、この地図の分野を協調領域としてオールジャパン化できたのは大きな成果であったと思っています。
自動運転・自動走行、ひいては自動車に関わる業界において新しい会社が成功するのは簡単ではありません。それこそ、量産実績や品質保証など裏付けとなる根幹部分がなければ、そう簡単に参入できる業界ではありません。その面からも、電機・地図・測量の株主各社が技術、ノウハウを惜しみなく提供して頂いたなかでスタートできたこと、そして世界で活躍する日本の自動車メーカー各社に参画頂けたことは最大の強みだと思っています。

グローバル展開

オールジャパン体制で設立された当社ですが、だからといって海外の企業を排徐しようとするのではなく、むしろ積極的なグローバル展開に取り組んでいます。
実際に、2019年には米国のUshrという会社を買収し完全子会社化しています。
元々Ushrは、General Motorsが米国で自動運転車を開発しようとした際に、カナダの測量の会社に目を付け、そこからスピンオフ的に立ち上げたカーブアウトベンチャー企業でした。
2018年当時にして20万マイル(32万キロ)の北米のHDマップデータを保有しており、さらにはかつ優秀なソフトウェアのエンジニアも数多く在籍し当社と同等の技術力を持っていたのです。
当初はUshrと競争するか迷いましたが、最終的には話し合いの結果、当社が買収してグループ化することで世界で一緒に戦おうという結論に至りました。

アライアンス

グローバルでの競争相手で言うと、欧州系のHEREやTomTomが挙げられますが、彼らとも事業領域が少し異なります。また、この市場に新規参入しようとする企業が出てきたとしても、オールジャパン体制で英知を結集した弊社の技術が簡単に追いつかれることも早々ないと考えております。しかしながら同時に、プロダクトだけでの差別化は充分でないと考えており、自動車業界やセンサー業界、半導体業界といった様々な企業とのパートナリングを大切にしながらアライアンスを含めたビジネスモデルで差をつけていこうと考えております。

現在の保有データと他分野への活用

現在、弊社は国内すべての高速道路(上下線合わせて約3万km)のデータを保有しており、今後は次世代のHDマップとして一般道路のデータ取得にも取り組んでいきます。
HDマップを整備するために蓄積した技術は、自動運転・自動走行以外にも様々な分野(インフラ管理、ドローン用の空路、空港敷地内のモビリティ用道路、地下埋設物の管理等々)にも活用できると考えております。

今後の展開

現在、弊社は日本市場と米国市場で事業を展開していますが、お客様の要望にこたえるため、新たな市場(国と地域)への展開も検討しています。このビジネスの特徴として、サービスを納品したら終わるものではなく、寧ろそこからがスタートで以降長く継続されるべきものです。そのため、エリア毎にお客様の要望を聞いて市場の立ち上がり状況を見極めながら展開していきたいと考えています。
さらに、新たな市場に進出するうえで重要なのが「標準化」です。Ushrを買収する際、元々のお互いのデータの規格は異なりましたが、グループ化するにあたって統合する必要が生じました。規格を統合することによって業務の効率化が図れるだけでなくお客様に高い価値を提供することができます。

この地図で、クルマは未来を走る
GNT100インタビューのおわりに

今回、高精度3次元地図(HDマップ)という分野を先導するダイナミックマップ基盤株式会社様にインタビューさせていただきました。
自動運転に対する取り組みが世界で加速していく中、「認知」の分野で欠かすことのできない静的な地図情報という市場に着目し、グローバルにサービスを展開しており、さらには、自動運転・自動走行に限らずインフラ管理やエンターテイメントにも活用できる技術を持つ同社は、まさに国内のみならず世界市場をにらんだサービス展開を推進していくグローバル企業であると感じました。
また、グローバル展開に欠かせない標準化の実現、デファクトスタンダードに強い意思を副社長がもたれていることに非常に興味を持ちました。世界を意識した時に標準化という避けられない壁に対してどう感じているのかなどをお聞きすることができて、非常に勉強になりました。


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