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栃木の宝、江戸時代から受け継がれる甘みと伝統の新里ねぎ〈GIインタビュー〉

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栃木県宇都宮市の北西部、新里地区で育まれる新里ねぎは、江戸時代末期から続く伝統野菜の一つです。その独特な曲がった形状と、他のねぎ種類と比べて顕著な甘みと柔らかさが特徴です。今回はそんな新里ねぎの生産と普及に携わっている新里ねぎ生産組合 組合長 麦島弘文様と松本農園の松本朋文様にお話をお伺いしました。

 

新里ねぎ(地理的表示産品情報発信サイト)

 

ブランドねぎ「新里ねぎ」誕生のきっかけ

麦島さん―
江戸時代末期から続く伝統的な栽培法によって育てられてきた新里ねぎ。しかし、約40年から50年前、人工的な交配による新種のねぎが市場に登場しました。それから10年以上が経過し、新里ねぎの味わいが再び地元で注目を集めるようになります。「新里ねぎはおいしい」という声が高まり、伝統の味が再評価され始めたのです。
このネギをどのように守り、継承していくかについて、地元の関心が高まる中、新しい法律に基づく地理的表示保護制度(GI)が登場しました。これこそまさに新里ねぎを継承していくための一つの手段であり、地元の方たちの要望に応えることができるのではないかと思い、GI登録制度を申請するに至りました。

江戸時代からずっと守り続けてきた新里ねぎの遺伝子

麦島さん―
GI登録のために必要な資料を集める過程で、新里ねぎの歴史に関する貴重な記録も多数調査をしました。その結果、「江戸時代から始まった」という記述が何冊にも記載されているので、新里ねぎが江戸時代から続いていることは確かなものだと思います。
ではなぜ江戸時代、この地に「新里ねぎ」が定着したのか。 実は、遺伝子解析により、新里ねぎが江戸時代の「千住ねぎ」と同じ遺伝子を持つことが判明しています。
伝統野菜の食用品の種を保存しておくために、ジーンバンク(遺伝子バンク)というものがあります。このバンクは、伝統野菜をはじめとする食用品種の遺伝子を保存し、将来の研究や栽培のためのものなのですが、新里ねぎも、この遺伝子バンクに登録されており、遺伝子解析が行われました。その結果、新里ねぎは「千住ねぎ」と呼ばれる、埼玉県で栽培されているねぎの遺伝子と同じであることが判明しました。そしてなぜ千住ねぎがここ新里地区に来たのかというと、江戸時代に日光東照宮を参拝するために新里地区に宿泊で訪れたお殿様が、持ち込んだのではないかとされています。このお殿様は、埼玉県で栽培されていた「千住ねぎ」があまりに美味しく、参拝に行っても食べたいと思い、その種を携えて旅をしていたところ、その種が宿泊地であった新里地区にもこぼれ落ち、この地に根付いたことが現在の新里ねぎの始まりと言われています。


日光東照宮

 

新里ねぎだけの特徴を生み出した土壌と気象条件

麦島さん―
新里地区の土壌は、肥沃な川沿いの土地とは異なり、山の崩れた土と火山灰、植物の遺骸から形成されています。つまり元々排水のよいクロボク土壌と言われる有機質の土地じゃないんですね。山が崩れた土なので、石も混じっていますし、焼き物に使うようなベタベタした粘土質の土が混じった土地なんです。なので水を含むとべたべたになり、乾燥すると固くなるという特性を持っています。このため、新里ねぎは真っ直ぐには育つことができず、横にして生育させる技術が開発されました。ねぎを横にして上から土を盛り上げることで、白い部分を長くすることができます。これは作りにくいところで無理やり作ろうとして思いついた方法だと思いますが、このような土壌は、逆に植物にとって肥料分解が早く、栄養吸収が良いというメリットがあるようです。

気象としては、新里ねぎは冬場に収穫されるため、日照時間が長い日中と、夜間の寒さが特徴です。周囲に高い山がないため、南側が開けていて日中は日光がたっぷりと当たります。さらに冬になると、日光の近くに高い雪山があるのですが、その山々から冷気が降りてきて、夜間は非常に寒くなります。この日中の暖かさと夜間の冷え込みのコントラストが、新里ねぎの甘みを引き出す一因となっていると考えられます。



若い生産者への伝承

麦島さん―
農業従事者はどうしても高齢者が多く、高齢化が進んでいます。しかし最近は若手の方も少しずつですが増えてきており、新里ねぎの未来を担ってくれています。その一人が松本農園の松本さんです。

松本さん―
「幼少期から親しんだ新里ねぎは無くなってしまうというのは悲しい。そんな思いがあり、父の後を継いで新里ねぎの生産を引き継ぎました。麦島さん達が一生懸命努力をしてGIマークを取得してくれたおかげで、新里ねぎへの関心は高まり、多くの人々がそのおいしさを評価してくれています。しかしその一方で、年配の生産者の方々がどんどん生産できなくなってきている。これからも新里ねぎを評価して購入してくれる方たちに食べ続けてもらいたいという気持ちが強くありました。
新里ねぎは他のねぎと比べて顕著な甘さがあります。特に加熱をすると、甘さと柔らかさが増し、とろっとして本当に甘みが増します。これが何よりも新里ねぎの魅力だと思います。また、緑の部分もエグミが少ないため、生で刻んで食べても十分美味しい。これらの特性を守り続けることに、私は大きな価値を見いだしています。」



GI登録までの苦労

麦島さん―
GI登録は、私がほとんどの登録手続きを行いました。まず、登録のために組合を作らなければならないのですが、組合設立のために地元住民の同意を得るのに1年を要しました。新里ねぎは新里地区特有のものであるため、生産者はこの地域に限定されます。そうなると、地理的に作れなくなる人も出てきますから、地域の方々の同意がないと後でトラブルが起きる可能性があります。これを理解していただくのに非常に時間がかかりました。 さらにその後、書類作成に半年。例えば、気象条件について記述する必要があることから、気温が何度にあがるのか、何度に下がるのかについて調べて資料を作成したり、歴史についても江戸時代からと言っていますが、江戸時代からという歴史の証拠を提示したり、地域についても人口の統計や農業従事者の数など、非常に幅広い情報を集めて資料を提出する必要がありました。これらの書類を作成して、農林水産省に提出し、審査を受けて受理されるまでにさらに半年かかりました。 農作業を行いながら行っていたので、農作業が終わってから夜遅くまでこの作業をしており、苦労はしましたが、情熱を持って最後までやり抜くことが重要だと感じ、何とかGI登録を成し遂げることができました。

GI登録でブランド価値向上

麦島さん―
新里ねぎの地理的表示(GI)登録後、その評価は非常に向上しました。以前より、ろまんちっく村という大きな道の駅での宣伝活動により地元での知名度はある程度確立されていたのですが、そこにGI登録の効果が相まって、価格が20%~30%上昇しました。
また、GI登録による宣伝効果は、報道機関からの注目の増加や、首都圏を中心とした顧客層の拡大にも繋がりました。ネット通販や贈答品としての需要が増加し、リピーターの数も増えています。これは、新里ねぎの味への評価の高まりを示していると感じます。
道の駅ろまんちっく村では毎年「新里ねぎ祭り」を開催していますが、最近は焼いて食べるスタイルが新たに導入されました。スペインのバルセロナで現在太いネギを焼くスタイルが人気でそれに触発されたようですが、もともと日本でも焼きねぎという食べ方がありましたよね。この食べ方の美味しさが再発見されました。
お家で美味しく食べる方法としても、ラップでくるんで焼く方法や、電子レンジで熱を加える方法もあります。そこにお醤油をかけて食べると本当に美味しい。焼くことで甘みが増し、とろみが出るという特性を活かした新しい食べ方です。新里ねぎ祭りでの焼きねぎの導入は、その美味しさを再確認する機会となりました。

 


新里ねぎまつりポスター(道の駅ろまんちっく村サイト)

リッツ・カールトン日光にも新里ねぎ〜海外の市場に向けて〜

麦島さん―
現在、インバウンドで海外からのお客様が増加してこともあり、新里ねぎに対する海外からの関心も増えています。G7会合が行われるリッツカールトン日光でも提供されるなど、国際的にも認知が広がっています。海外のお客様が来訪し、新里ねぎを味わうことで、その特別な雰囲気や生産者の話を体験してもらえると考えています。
また、海外への輸出についても、値段と輸送手段の面で検討しています。海外での話題性が地元での再評価につながると考えているため、できるだけ多くの地域で新里ねぎを知ってもらいたいと思っています。
私自身、かつては地元の機械製造会社でエンジニアとして働いていました。その際の海外経験を通じて触れてきた、特にヨーロッパのように土地固有の特性を重んじる文化を思い返すと、新里ねぎは、フランスの特定の土地でしか作れない高級ワイン「ロマネコンティ」のような価値を持つ、地元の宝物だと感じています。


新里ねぎの未来:伝統とテックで新たな新里ねぎの魅力を

麦島さん―
新里ねぎはそのユニークな形状、柔らかさ、甘みで知られていますが、今後は伝統だけでなく、実際の美味しさにも更に焦点を当てる必要があると考えています。お客様を引き付けるためには、ストーリー性だけでは不十分であり、やはり実際の味わいが重要です。そしてそのために、その「美味しさ」をどうやって測るのかという点に課題があると思います。 GIへの登録というのは製品の真正性を証明してくれますが、実際の消費者は味わいに基づいて製品の価値を判断すると思います。「これは本物の新里ねぎです」と言われても、味が消費者の方の思い描く味出なければ選んでもらえなくなります。結局は食べる方が最終的にその価値を決めるので。
そうなると、新里ねぎの味わいや美味しさを新しい技術で表示出来たらいいなと私は思います。例えば、AIを利用した“美味しさの数値化”とか。食べ物の成分データをもとにAIが味を判断できるようなことがあれば、伝統的な良さと新しいテクノロジーを組み合わせることで、さらに美味しいネギを作っていけるのではないかと思っています。

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