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和牛日本一「鹿児島黒牛」<GIインタビュー>

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国内外で人気を博している和牛。平成29年に行われた日本一の和牛を決める第11回全国和牛能力共進会では、国内最多の和牛生産量を誇る鹿児島県が、9部門のうち4部門で1位を受賞し、栄えある総合優勝(団体賞)に輝きました。

鹿児島の和牛は「鹿児島黒牛」として現在、国の定める地理的表示保証制度(GI)に登録を受けております。

今回はその「鹿児島黒牛」の魅力と、GI登録の経緯について、鹿児島県 農政部 畜産課 肉用牛酪農係 係長の古殿 様に取材させていただきました。]

鹿児島黒牛の魅力

生産量日本一、鹿児島黒牛の魅力

日本のいわゆる和牛4品種のうちの1つが黒毛和種です。鹿児島県は黒毛和種の生産頭数が日本一で、常に美味しく品質の高い牛肉を消費者に安定的にお届けできるという強みがあります。
和牛の最大の特徴はサシ(脂肪交雑)の入った霜降り肉です。これは、全国の産地で和牛の改良が進められていますが、特に頭数が多い鹿児島県では、長年にわたり肉質の改良を重ねて、よりきめ細やかで美しいサシの入った、まろやかで旨みのある牛肉生産を追求してきました。

大自然の中で愛情をもって育てる

さらに鹿児島県は日本の中でも温暖な地域で豊かな自然に恵まれています。鹿児島黒牛はそのような自然環境の中で生産者の愛情をたっぷり受けながら大切に育てられた牛のお肉であるというこのストーリー性も、鹿児島黒牛の大きな魅力の一つだと考えています。

良いものだからこそおすすめしたい食べ方

和牛肉の特徴を引き出すには、肉そのものの旨みを活かすシンプルな調理が適していると思います。例えば鉄板焼きでステーキにしたり、出汁を一瞬くぐらせてしゃぶしゃぶにしたり、そういったシンプルな調理法が、おそらく一番鹿児島黒牛の脂の質の良さを感じることができる、美味しい食べ方だと思います。

地域性について

鹿児島県は温暖な気候で比較的寒暖差が小さいため、牛の飼養管理がしやすい地域であると思います。特に生まれたばかりの子牛や出産前後の母牛の体調管理には細心の注意が必要ですが、鹿児島黒牛は恵まれた自然環境の中で大切に育てられます。
また草資源が豊富なことも地域の特性です。健康な牛づくりには新鮮で良質な粗飼料が欠かせません。

徹底された品質管理

衛生管理

鹿児島黒牛がお肉として消費者の方々の手に届くまで、徹底した衛生管理がなされています。
飼育中は病気にならないような健康管理が必要です。このため、牛舎内を清潔に保つことや病気の原因となるウイルス等を伝搬する害虫の駆除また、堆肥の適切な処理も重要です。さらに適正なワクチン接種を行うなど、衛生管理をしっかりと行っています。

個体情報管理

日本では、牛トレーサビリティ法に基づき、牛1頭ごとの個体識別番号(10桁)で出生からと畜までの移動履歴や品種、性別等の情報が一元管理されています。また、生産された牛肉についても、流通の各段階で個体識別番号の表示や伝達が義務づけられます。また牛の登録制度により改良の基礎となる血統や能力の情報が蓄積され、これらの情報を活用して長年改良を重ねた結果、優秀な血統が引き継がれ、今の鹿児島黒牛に繋がっています。

と畜検査員(獣医師)による検査

そしてお肉になる際には、厚生労働省の定めにより、食肉衛生検査所の獣医師による全国一律の検査が行われています。一頭一頭ごとに内臓やお肉の状態を見て、病気にかかっていないか、衛生的であるかどうかが検査され、食品として適正なものが消費者の方々に届くような体制が十分に整えられています。

和牛日本一、鹿児島黒牛のブランド確立

前回の第11回全国和牛能力共進会において鹿児島黒牛が「和牛日本一」を獲得しました。これを機に、「和牛日本一」を前面に打ち出して鹿児島黒牛の更なるブランド確立に向けて取り組んでいます。

鹿児島黒牛は海外の消費者にも人気が高く、年々輸出量も増加しています。これまで、海外で開催されるフードエキスポや展示会、商談会に参加して鹿児島黒牛をPRしています。輸出される牛肉の殆どはロース等の高級部位です。今後、多様な部位の輸出拡大に向けて取り組む必要があります。このため、料理にあったカット技術の普及等にも力を入れています。

生産者は鹿児島黒牛の品質を維持するため、各種の飼育管理マニュアルの普及や生産者を指導する技術員の育成に力を入れています。これだけ生産頭数が多いと、当然農家の方々の数も多くなりますので、互いの協力・連携が欠かせません。県をはじめ、生産者や市町村、関係団体の皆さまと、一つの協議会を作り、目線を一つにすることで、県内の関係者が1つになって鹿児島黒牛のブランドを守っています。

鹿児島黒牛全体の品質を向上させ、また消費者の方々の信頼を得ていくためにも、こうしたような取り組みには力を注いでいます。

GIについて

GI取得において苦労した点

鹿児島黒牛のさらなるブランド確立のためにGIの取得に取り組みました。地域で育まれた伝統を有し、その高い品質等が生産地と結びついている農林水産物や食品の名称を知的財産として保護する制度ということで、これまでにない切り口で評価いただける制度であると認識しています。

取得にあたって、認証の肝となる地域性・独自性をお伝えするのは、特に苦労した点でした。これらはお肉の品質の説明とは異なり数値化が困難なものだったので、肉質を追求するための改良を進める上で頭数の多さが強みになっていることや全国和牛能力共進会などにおけるこれまでの評価の高さなどを重点的に説明いたしました。

GIの取得が新たな機会に繋がる

GI登録は今後、海外の新たなファン獲得に大きく役立つものと期待しています。特に欧米では、味や品質など、直接食べることに関わる要素だけでなく、環境問題やアニマル・ウェルフェアなど、生育過程にまで目を向ける消費者の方々が多くいらっしゃいます。鹿児島という土地で愛情を持って育てられた牛であるということをPRすることにより鹿児島黒牛の魅力を感じていただいており、ぜひGIのマークを店頭で表示して取り扱いたいというご要望をいただいたこともありました。
我々が取引するのはバイヤーのような輸入・輸出に携わっている方々が非常に多いため、そういった生産工程に高い興味関心を持つエンドユーザーのニーズを受け、GIマークを取得した鹿児島黒牛が選ばれ、輸出量の増加につながったのではないかと考えております。

海外におけるGIの取得

このGIは日本国内だけでなく海外でも取得に動いており、現在ベトナムでの登録に続いて、タイでの登録を進めているところです。現在EUでは双方の国のGI産品を相互保護する仕組みがありますが、さらにベトナムとタイは、GIの相互保護に向けて協力関係にある国となっていたことがその理由です。現在鹿児島黒牛は多くの国々に輸出しており、各国でGIが効果的に活用できるのであれば、今後も広く海外でのGI取得を進めていく必要があると考えております。

海外における評価やお取り組み

国内外ともに評価の高い鹿児島黒牛

内外問わず料理人の皆様は、食材の生産された環境やストーリー性に魅力を求めることが多いと伺うことがあります。料理人の方々と時々交流する際に、私も実際にそう感じることがあります。そういう方々にも、「鹿児島の豊かな自然の中で、農家の方々の愛情を全面に受けて、のびのび育っている」という鹿児島黒牛は、大変に評価されていると感じています。

一方で肉そのものの品質の高さも重要です。前回H29開催の全国和牛能力共進会で優秀な成績を収めたということで、当時、安倍晋三元首相にも鹿児島黒牛が「和牛日本一」になったことを報告し、「最優秀枝肉賞」受賞牛を試食していただきました。

安倍首相からは「肉汁がぎゅっとして、ジューシーで美味しい」というコメントとともに「日本一ということは世界一だ」とのお言葉をいただきました。

海外では、食文化的に赤身肉は丸ごと焼いたりローストしたりして食べられることが多いのですが、鹿児島黒牛に関しましてはお寿司のネタにして食べていただくこともあるようです。生でもレアでも甘くて美味しいために、現地でも評価いただいているようでした。

このほか、他の都道府県にはない魅力の一つに、クオリティの高い和牛の肉を安定的に生産できるという点が挙げられます。オーダーに常に応じられるだけのロットを持っているというところも、お肉の品質や恵まれた生育環境と共に、鹿児島黒牛が評価いただけている理由の一つだと考えています。

輸出に伴う偽物対策

輸出のことに言及しますと、アジア、その中でもとりわけ香港への輸出量が近年増加しております。鍋料理など、食文化が似通っているために日本に親しみを持っていらっしゃる方が多いと、やはりニーズも一定数いただけるようです。

ただ、海外の方では偽物が流通していたとの報告も受けております。かねてより偽物流通に備えて輸出相手国でも統一ロゴを商標化したり、日本だけでなく海外でもGI認証を取得したりと、対策を講じてまいりました。なので、我々にも現地の情報が届き、異議申し立てを行いました。GIに関しては国内で登録後、ベトナムでも登録を受け、現在はタイでの登録を進めている最中です。EUをはじめとする諸外国でも、この認証は保護の対象となっているので、対策も徐々に確立できてきていると感じています。

個人的には、偽物が出るということは他人が真似したくなるような品質だという裏付けとも取れますので、ブランドに箔が付くという側面もあるように感じますが、消費者の方々には安心して食べていただけるよう、引き続き対策を徹底いたします。

グローバル展開

新型コロナウイルス感染症が蔓延して久しいですが、現在鹿児島黒牛の輸出量は順調に数字を伸ばしております。インバウンドで日本にはなかなかお越しいただけない状況にあるのですが、だからこそ鹿児島黒牛に親しみのある海外の方々が、自分たちの国の中で鹿児島黒牛を食したいというニーズが増加しているのではないかと考えております。

現在主に取り扱っているのが、輸出入業者様に向けた高級部位と呼ばれるような部位のお肉の取引なのですが、ECサイトでの直接取引も扱ってほしいとのご要望もいただいております。

その場合、部位や状態など幅広い観点から細分化が見込まれるので、もしECを導入することになれば、流通事業者様と連携をとって丁寧に検討していこうと考えております。

また、ただ単に新規顧客獲得のためのPRだけでなく、先ほどお伝えしたような以前より親しまれていた方々に向けても、鹿児島黒牛の食べ方や日本・鹿児島の食文化等も含めてPRしていき、鹿児島の良さを海外に伝えていきたいと思っております。

畜産とテクノロジー

現在、私たちが直面している別の課題が、畜産の担い手不足です。畜産に限らず第一次産業の担い手は高齢化し、生産者数も減少傾向にあります。そのような状況の中でも安定的な生産を維持しなければなりません。そのため、担い手の減少を各農家の生産規模でカバーし、基盤を維持する必要があります。そこで、生産性と効率を向上させるためにICTやスマート農業といった技術を半ば必然的に取り入れることとなりました。

ICTは大きく分けて繁殖・肥育と流通の2つに活用されています。まず発情を早期に発見することで効率的に人工授精を行い、子牛の生産を促進しています。その後子牛に10桁の耳標を割り振り、個体識別管理を行うことで、お肉として出荷するまで牛の生育管理を行なっています。この耳標は牛トレーサビリティ制度に基くもので、お肉として出荷された後も個体の追跡が可能です。例えばスーパーなどで消費者の方々がお肉を手にする際、「今日売られているお肉の10桁耳標はこの番号です」というような表示がなされるので、流通後も自分が購入するお肉がどこで育った牛かというのが必ず確認でき、安心いただけるような仕組みになっています。

鹿児島県肉用牛振興協議会の今後の取組

最後に、今年10月には、第12回全国和牛能力共進会が、本県鹿児島で開催されます。大会に向けて、鹿児島黒牛のPRとさらなる飛躍のために、関係機関の方々や生産者の皆さんと連携して県全体で一緒になって、良いものを作っていかなければなりません。皆様と連携して品質の維持・向上に力を入れ、これから鹿児島黒牛の魅力を多方に伝え続けていきたいなと思っております。


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