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大自然と先人の知恵の恵み、奥飛騨山之村 寒干し大根<GIインタビュー>

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豪雪地帯である奥飛騨山之村地区は、以前は雪によって交通が遮断され、陸の孤島となることもありました。そんな山之村の地において、寒干し大根は冬場の貴重な保存食として食べられてきました。1年のうち、その厳冬期にのみ生産することができます。各家々の軒下で約1か月間、夜の寒さと昼間の日差しによって、いわば、天然のフリーズドライ食品と言える寒干し大根が作られます。地理的表示(GI)保護制度の登録を受けた産品であることはご存知でしたか。今回は、寒干し大根を生産している、すずしろグループの会長である岩本 智恵子 様に取材させて頂きました。

取材の一環として弊社スタッフが奥飛騨山之村寒干し大根を頂きましたが、非常に美味しかったです。そのときの実食レポートも載せています。

奥飛騨山之村 寒干し大根の魅力や特徴

先人の知恵と天の恵みで作られる寒干し大根

これは私たちが考えたものでもなく、昔から山之村に住んでいた先人達が生活するうえで、食べ物を保存するために作ったものを商品化したものです。自分達で大根を湯がいたりはしますけど、軒下に一か月ほど干すので、それはもう、(生産過程の)ほとんどは天候に任せて作り上げるもので、ほんと、山之村でしかできないものだと思います。

天空の村、山之村でしか作れない寒干し大根

山之村はマイナス二十度くらいに下がるので、干した大根は凍みる(外気で凍ること)。そして昼間、太陽の光で、その凍みたものが溶ける。それを毎日繰り返して出来上がる。それを今年みたいな暖冬な年は、夜の凍みがなくて、雨が降ったりすると、赤カビが発生して、半分は捨ててしまうことになります。いくら一生懸命作っても天候によって商品化できないこともあります。

(良い寒干し大根を作るには、冬の)寒さが大事です。でも、冬が寒いだけでもダメなんです。昼間、それなりに太陽の光を浴びて、凍みたものが溶けないとおいしくなりません。凍みて溶けての毎日繰り返しで大根の中の水分が抜けて、乾いて行くからです。雪が大根にかかったりすると良くないですけど、ある程度雪がないと気温が下がらない。雨だと、もう腐ってしまう。寒さとおひさまと風、全部が揃って、やっと出来上がるものなんです。

(山之村以外の)どこで作ってもおいしくないと言われます。ここから下に降りて行った神岡町で作っても同じにならないのです。また、素材の大根もおいしいと言われます。大根もこの山之村で収穫したものだけを使い、畑から抜いたものを2か月、3か月土の中で寝かせます。自分たちでやるのではなくて、すべて自然の中で寒干し大根になっています。

地元での食べ方

普段食べるというよりは、来客があった時などに出します。湯がいて柔らかくなっているので、まず水で洗って、火を通して、だし醤油に置いておけば、戻って柔らかくなって味が染みるので、料理の時間が短く調理できます。また、大根の甘みが残っているので砂糖を使わなくても甘いです。歯ごたえが普通の大根と違うシャキシャキ感があります。

いつから作られるようになったか

詳しい歴史はよくわかっていないです。現在、90歳くらいの方が子供の頃からすでにあったと言っています。少なくとも100年以上の歴史はあるという事でしょうか。

栄養価について

調べているのは成分表示くらいまでで、詳細な栄養価の数値などはまだ調べていませんが、栄養価は干すことで生の大根より数値は上がっていると思います。それに加えて、水分が抜けているので、量が食べられます。そのため、食物繊維がたっぷり摂れます。たとえば、1つの輪切りしか食べられない人でも2、3個食べられます。

寒干し大根の作り方

生産の流れの工程としては、言葉でなかなか説明できないので、ビデオを作りました。全部の工程がわかるようにしてあります。山之村を知ってもらえたらという思いでビデオを作りました。一ヶ月は干しているんですよ。最初はきれいできらきらしていて、最後は飴色になります。

昔は藁で縛って、輪っかになって干していました。しかし、暖冬になると、くっついてしまう。県の人がアイディアをくれて、それをそろばんの目のように干すように改善しました。横の棒は一緒ですが、木枠は既製品がなく、生産する各家庭で形状が違います。最初はくぎを刺している人やいろいろ考えて、地元の大工さんに依頼して木枠に切れ目を入れて作ったり、各家庭で旦那さんが工夫して作ったりします。それぞれが家庭で作ったものを持ち寄って、最後に商品に生産します。

実際に食べ比べてみました<GI実食>

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麻婆豆腐

コリコリとした歯ごたえが麻婆豆腐の良いアクセントになっています。水の代わりやトロミ粉を溶くのにも寒干し大根の煮汁を使用しましたが、出汁の風味が出てよりコクが増しており、非常においしかったです。

おでん

おでんの出汁と寒干し大根の風味がとても合いました。

からしを乗せて頂きましたが、日本酒のおつまみに良いのではないかと感じました。

GI(地理的表示)登録を取るにあたって

私たちはただ一生懸命生産してきました。GI登録について、以前、農水省さんの方から話があって、登録を進めましたが、(書類作成や手続きが)難しくてやめました。しかし、もう一度声がかかって、(神岡)市の方にも協力してもらって、登録するに至りました。自分達でGIに対して、すごくわかって知識があってやったわけではないのです。

GIに登録され、価値を再発見

GIを取って、あらためてこれはすごいのかなと逆に実感しました。いろんなところで、すごいねと言ってもらえて、あらためて、価値を実感しました。先人の知恵の凝縮したもの、天然フリーズドライであると、若い世代に伝えてきている。昔ながらの製法を守っていますから、大量生産はできないですけど、昔から伝えてもらったやり方を地道に続けています。

平坦ではなかった特産化の研究からGI登録に至る30年間

昭和60年に始めて、30年過ぎた中にはいろいろありました。最初はすごく苦労したと聞いています。最初の頃は作ったけど売れない。袋詰めしても売れずに廃棄することになりました。お客様に売れる販路開拓が難しかったそうです。その中で、生協さんが採用してくださったことが大きかったです。そして徐々に販路が拡大していきました。「寒干し大根づくりの体験」などを企画して、認知を広めました。10年くらい前には、作れば売れるという状況になりましたが、暖冬の年には、カビが生えて腐って捨てることになりました。

国内外の多くの賞を受賞

過去の売れない時には、(すずしろグループの)会員さんが売れないという理由でやめたり、高齢になって引退された会員さんもいたりで、始めたときの半分以下の人数になりました。しかし、地道に会員の皆さんが一生懸命に生産を続けてきた結果、さまざまな賞を頂きました。

今後の展開について

新型コロナの影響

新型コロナの影響で、観光部門、ホテル、旅館などの大口注文は、ほとんどストップしています。今年は暖冬で、生産数の半分にカビ被害が出て、捨てました。しかし、その残りをまだ売り切っていません。今考えているのは、地元の学校給食や介護施設など、今まで使っていなかったところでも取り扱ってもらえるように働きかけていきたいと思います。

メディアとインターネット通販

テレビ取材など、メディアに出ると反響は大きいです。今後もいろいろなメディアに出ていきたいと思っています。また、今までは卸売業者に卸して販売するルートと、道の駅などで、おみやげものとして販売されてきました。コロナの影響があるので、今後はネット販売を強化していきたいと考えています。

トレーサビリティー

(トレーサビリティや品質保証の取り組みは)大事なことだとは思っています。ただ、私たちは、主婦の人達の小遣い稼ぎで始まっています。どこまでできるのか、どこまでやるのがいいのかは、いろんなことを考えていかないと思っています。山之村以外の他の地域でも、寒干し大根を作って販売しているところはあります。しかし、山之村寒干し大根を騙る、悪質な偽物の商品については、目立ったものは今のところはありません。

海外展開について

生産の過程は全部手作業で、生産できる期間が1か月しかない。そのため、さらに大量生産をすることが難しいです。生産量の関係、天候に生産量が左右され、生産量が安定しないということがあるので、海外にまで出せるのか、わかりません。

海外や他の地域での生産について

作り方は教えることは可能です。でもそれは、(天候条件が違うので)山之村の寒干し大根とは違うものになると思います。また、山之村寒干し大根は、山之村で種をまいて、育てた大根だけを使っています。

もっと普及させるには

世の中は健康食ブームなので、食物繊維を多く摂りたい人などに、全国区で知らせていけば、もっと食べてもらえるようになるのではと考えています。また、災害の時の話もあります。乾物なのでいざという時に食べられる保存食になります。賞味期限は2年間としています。普段、保存する時には、乾物ですが、水分を含みやすいので、湿気を避けて、冷蔵庫や冷凍庫に保存してもらいたいです。水分を含むと、腐るわけではないですが、茶色くなってしまいます。ただ、それはそれだけ味が染みやすいということでもあります。

顧客や友人を招いて、「寒干し大根作り体験」もやりました。ここ(山之村)に来てもらって、干すまでの工程を体験します。工程の体験の後は、寒干し大根を使った料理を食べて帰ります。「寒干し大根作り体験」をやると、こんな大変なら、少々高くてもしょうがないねとなります(笑)。

包装紙の工夫

今は、パッケージ自体が、お土産用と業務用の二種類なんです。卸業者に卸して、ホテルと旅館向けに大量に販売する用途と、観光のところのお土産用として販売されています。ネット販売になると、量は(業務用より)小さくて、装飾が要らないパッケージがいいのではないかと考えています。今までは、業務用に卸すか、道の駅などで販売されていました。今後はもっと家庭でたくさん食べてもらえるように、大袋じゃない袋にチャックのついたものなどを考えてやっていこうかなと思っています。また、お遣い物の時はこちらというパッケージも作って、幅広い用途で使えるようにしていきたいと思っています。

パッケージの裏にはQRコードを載せています。そこからYouTubeに繋いで山之村を見てもらえたらなと思って付けました。パッケージを見ただけでは雪国は想像できないと思って映像を作りました。

これからについて

作ることが精いっぱいのグループで、売ることが下手なんです(苦笑)。こうなったらいいなという考えはありますが、まだたどりつけていない状況です。健康を考えていて、自然食を大事にする人、求めている人にたどり着ければいいなと思っています。今までは作れば売れるという状況が出来ていました。しかし、今後は、コロナの影響でわからなくなりました。

今まで観光産業にほとんど頼っていたので、コロナを機に、違う方向に向けていきたいと思っています。地元の学校給食で使うなど、地元ではほとんど使われていない状態なので、もっと地元から発信してもらうことも考えられるのかなと思っています。現在出荷したものは、実際にはどこに行っていくのかわからない状態です。業務用が卸業者を通じて、関東、関西の大きいホテルなどに行っている。その他の販売先はわかっていない。もっと近場から発信していけたらいいなと思っています。

インタビューの最後に

(寒干し大根の生産を)あたりまえのようにやっていて、GIを取ったことで、外部の人に言われて、初めて気づかされたことが多かったです。作業は大変だけど、私もここの生まれなので、近所のおばあちゃんたちが一生懸命やってきて、ここまでにしてくれたので、細々とでも続けていきたいなと、今はすごく思っています。せっかくこんなに30年も続けてやってきたのに、疲れたからやめるというのはナシかな。ここ2、3年で世代交代になって、お嫁さんに引き継がれた家庭がいくつかあるので、それも大事にしていきたいなと思います。

ぜひ今度は冬の景色の時に来てください。今日、貼ってある写真じゃなくて、実際に干している時の背景にしながらとか、吹雪の時に(笑)。私だけではなくて、会員の皆も集まってお話しできる機会があればと思います。

GI登録産品となった奥飛騨山之村寒干し大根<インタビューを終えて>

GI登録することによって、その産品の生産者の皆さん自身が価値を再発見する機会になったのだなと思いました。奥飛騨山之村寒干し大根は、今、さまざまな社会の変化はあるけれども、伝統食として、先人達から受け継いだものを未来にも繋げていきたいという想いを強く持って、着実に進んでいこうとしていらっしゃるのを感じ、心が温かくなりました。

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